vol.1 / 230429_storyについて
こんにちは。中村幸介と申します。
建築の設計をしています。
建築の設計と言っても、住宅や店舗のような比較的小さなものから、美術館や図書館のような公共性の強い大きなものまで様々で、時に外装だけ、内装だけをデザインすることもあります。家具や什器など、最早建築のイメージから離れたものまで考えることも多々あります。
それだけ建築という分野が扱うデザイン領域が広いといえるのですが、結局この人は何をデザインしているのだろうか、そもそもこの人は一体何者なのか、という曖昧な印象を与えてしまう不安を、僕自身感じる事も多いのです。建築や生活に対する僕の価値観が、一体どれ程伝わっているのか。それは設計の評価以上に気にするべき事なのかもしれません。
価値観を改めて言葉で伝える事、それ自体が野暮であるとも思います。一方で、設計過程での対話は無くてはならないもの、更には空間自体がコミュニケーションのひとつの形であると考えているからこそ、その価値観を共有する場をつくる必要があると常々思っていました。
日々の風景、溢れては消えゆく言葉や感情を見つめ直しながら、建築空間や設計について細々と綴っていこうと思います。storyと格好付けた名前で飾ってはいますが、雑誌を手に取るような気分で読んでいただけると嬉しいです。
建築家は空間で語れ。と槍を投げる様な態度はこの際捨てましょう。その背後にある施主との物語、設計者である僕の感性の伝え方、空間に対する共感を大切にしたいのです。
建築作品の説明は時に小難しく、僕自身も何を言っているのかわからなくなる時がありますが、それは当たり前の事かもしれません。私たちの生活なんて、ひとつとして同じものはないのだから。建築に対する理解は、誰かの生活に対する理解であるとも言えるでしょう。この場では、そんな誰かの生活と建築が少しでも近く感じられる様に、出来るだけ伝わり易い言葉を心掛けようと思います。
日々綴る言葉が、誰かの文脈に繋がること。そして芽生えた新たな空間の物語が、再び誰かの文脈に繋がりゆく。建築空間を介したコミュニケーションが循環する、少し先の未来を想って。
2023.04.29
中村幸介