真舟とわによるライブパフォーマンス

Shorin-an [Tea house with flying scales] / 竹のタープ / 竹林再循環プロジェクト

放棄された竹林から茶室をつくり、畑に木陰を生む。

幼少期から森と畑に囲まれた田舎で遊ぶことが大好きだった。しかし東京に住む今、その環境はとても貴重なものだったと日々感じている。「都会人」の自然と触れ合う機会が少ない一方、地方の山々には有り余る程の資源が眠り、しかもその多くは「放棄」されている。祖父母が住む姫路の田舎も今では放棄林ばかりで、高齢化する町にはどうする事も出来ない問題となっている。

建築に携わる者はこの問題に意識的であるべきなのだが、建築作品から読み取れるだけの単純な問題ではない。私たちの暮らしと森の循環に起こった齟齬を、地勢的な空間問題と捉え、建築をつくることを通して共有するためのプロジェクトを始めた。

里山の周縁、つまり人間と獣の境界領域となる山際に祖父母の家がある。私はこの境界領域に空間の可能性を感じている。暮らしのサイクルが森の循環に噛み合わなくなるとその影響は人間と自然界の「境界」に見えてくる。人間は森を放棄し、獣たちに居場所を譲った。それは人間の居場所を示す境界線を消したということである。シカやイノシシが村や町に下りて畑を荒らすことが増え、住民たちは大きな柵や網を設けることしかできなくなってしまった。

そうした問題を抱えながらも、祖父母は変わらず畑を続けている。日々耕している畑には日陰がなく、柵を越えて木陰まで行くわけにもいかないから度々納屋まで戻る。もし畑の傍に木陰があれば、山、畑、家を眺めながらお茶ができるだろう。私は元々祖父が所有していた竹林から竹を切り出し、茶室をここに建てることにした。

竹の空間を作るには、多くの道具と手順が必要だ。例えば、竹を火に炙る「油抜き」は、竹を腐りづらくするだけでなく、時間と共に表面を淡い茶色に変える。何事も規格化され、均一なものが好まれる現代には、竹のような不均一で節があるような素材は需要が減り続ける。しかし、その不均一さが生む差異は空間に遊びを、素材に豊かな表情を作り出した。自然を相手にする事は、変化を面白がる事だと改めて思う。

半割の竹はジュエリーのように連なり、やがて1枚のタープとなった。重力によって生まれる形状は、物質性を疑うような浮遊感を帯び、エッジと柔らかさが同居している。その隙間をすり抜ける陽の光は風に揺らめき、割り竹の薄茶色と緑青色が市松模様を描いた。青竹や土が香る茶室の中で安らいでいると、意識は次第に山に向っていく。

竹の鱗と共に山に向かって翔けていく。放棄竹林から生まれたその茶室は、「翔鱗庵」と名付けられた。


所在地:兵庫県姫路市
主要用途:茶室
設計:中村幸介
製作:中村幸介、吉川薫、鳥越洋平、豊永嵩晴、清水琳太郎、吉永悠真
写真:jasminum(sns@hello_jasminum)

© Kosuke Nakamura 2025.