semi-transparent wall / 半透明の展示壁

街中に湧き上がる温泉と「五蔵」と呼ばれる酒蔵が群をなす風景が拡がる、雪降る諏訪の2月。長らく空き家となっていた昭和初期建造の四軒長屋が、改修後2023年にオープンし、ご縁があり個展を開くことになった。

展示空間を構成する上で、中央に2本並ぶ柱を拠り所にすることを考えた。改修前の長屋では、ほぞ穴の残り方からして壁が空間を隔てていたのだろうか。当時の生活と今回の展示、それら異なる行為を重ね合わせるように、2本の柱の間に展示「壁」を設けた。糸を柱間で巻き続けるだけで作られたその「壁」は、パネルを掛けることができて、歩いて通過することはできない。鋲を刺すための厚み、視線を遮る密度は持っていない。パネルの上下にスリットを入れ、そこに糸を通すことで目線の高さに浮かべる。壁を作るための糸がそのまま展示用のフレームとなっている。パネルは大小あるため重量にばらつきがあるが、スリットに通す糸の本数によって調整されている。

結果的にパネルは浮遊感を持ち、それぞれ独立した展示風景を作っている。鑑賞者は手前のパネルを見て、そのまま透けて見える奥のパネルを覗き見たりすることで、同じ視界の中でストーリーの前後関係を操作するような、時間軸を行き来する鑑賞体験が生まれている。

展示パネル以外に東京から持参した素材は、ポケットに入るくらいの糸のロールだけだった。


所在地:長野県諏訪市

主要用途:展示会場構成
展示期間:2024.2.17-2.25(終了済)
設計、設営:中村幸介
写真:中村幸介

© Kosuke Nakamura 2025.