Steam brewery in Nadahama / 灘浜酔蒸乃蔵
街の発電所で温泉旅行
忙しい毎日を生きがちな私たちは、月に何回も温泉旅行のために仕事を休むことができない。仕事(work) と休暇(vacation) を組み合わせたワーケーションなる働き方も夢のまた夢か。ならばいっその事、街の真ん中だからこそ浸ることができる夢心地を求めてみようではないか。
神戸が誇る酒どころ「灘五郷」。酒蔵から水蒸気雲が昇る灘浜の景観は、冬の風物詩として愛されていた。この雲は、米を蒸したり酒を殺菌するために蒸気や熱水を使っている証拠である。数ある酒蔵の中にはこの「熱」を発電所から享受する蔵もある。
燃料として石炭を大量消費する神戸発電所は資源転換の渦中にある。沿岸部での利用も進む地熱発電を計画に組み込むことで、酒造りを始め、温泉や調理に対しても熱源供給を可能にする。地熱温泉に癒されるだけでなく、酒造りや発電の仕組みを地球のぬくもりから学ぶことができる生産体験施設として街に開くことができる。閉ざされたものづくりの場に足を踏み入れることで、職人の手仕事の細やかさだけでなく、建築や設備の圧倒的なスケール、工程や道具の複雑さ、それらが使い込まれてきた時間の蓄積を体感できる。
人間とは不思議なもので、日本酒にしろ電気にしろ、手元に来るまでの過程を知ることで、よりおいしさや有難さを感じることができるものである。
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灘浜酔蒸乃蔵
所在地 / 兵庫県神戸市
主要用途 / 酒蔵、地熱発電関連施設(アンビルト)
設計 / 中村幸介
協力 / 頼もしい後輩6名